会社選びをするときに「業界・会社の成長性」に重点を置いて選択する人が結構います。でも、いまいち自分が会社の成長性に重点を置いている理由を分かっていない状態で、ただなんとなく「成長している業界・会社の方がいいでしょ」とぼんやりと思っている人もいます。
たしかに、「今後ウチの業界は衰退します!(キリッ)」なんて言われたら、チョット躊躇してしまいますよね。今後数年、長ければ数十年も働くかもしれない会社を選ぶわけですから躊躇するのは全くもって自然な反応です。
でも、躊躇する理由って一体何ですか?と聞かれた時に、スパッと答えられるでしょうか。もしここで回答に詰まってしまった人は、もしかしたらその業界が成長するか衰退するかという問いは、大した問題では無いのかもしれません。
成長企業の方が良い経験ができる?
これは完全に主観ですが、会社や業界の成長性を重視する人の多くは「成長企業の方がより良い経験値がつめる」と考えているように思えるのですが、果たしてそうでしょうか?
私は一概にそう言い切ることはできないと思っています。
イケイケの成長事業だからこそ得られる経験・学びがある一方、ジリ貧とも思われる成熟事業をサバイブさせる仕事から得られる事だってあると思うからです。
自分が経験したいことを、出来るだけ明確に定義した上で、成長企業が良いのか、成熟企業が良いのかを判断していくのが良いと思います。
成熟市場の戦いも悪くない
私は今の会社に勤めて7年が経ちますが、初めの3年半は売上高成長率がわずか1%、営業利益率はどんどん悪化していた完全なる成熟事業の担当でした。そして、その後の3年半は、全社の収益管理をすることになったので、すべての事業を横断的に見るようになりました。
初めの3年半、成熟事業を担当していた時に得た学びは極めて貴重なものでした。社内には売れば売れるウハウハの成長著しい事業もある中、担当していた成熟事業(いや、利益で言えば衰退事業といった 方がいい)は八方塞がりでした。
生産設備の老朽化が著しく、生産性はどんどん落ちて製造コストは右肩上がり。
プロダクトもすっかりコモディティ化が進み、安売り路線の競合製品と比べてもどんぐりの背比べ程度の違いしかない。
結果的に価格競争に巻き込まれ、販売価格も低下し続けていました。
さらに、ペインビジネスだったので、採算が合わないからと言って「やーめた」と言って撤退できるビジネスでもない。
不採算のまま続けなくてはならない。
当然、「生産設備の悪化が製造コストを押し上げているから、新しい設備に変えましょう」とエンジニアは主張するのですが、経営企画あたりの連中が「販売価格が低下し続けている成熟事業に多額の設備投資するのはあまりにリスクが大きすぎる」と一蹴します。
「こんな状況でどうやって事業を復活させりゃいいんだよ!」と誰もが思っていました。しかし、それでもどうにかして利益率低下に歯止めをかけ、今では売り上げこそ横ばいですが、利益率は改善し始めました。
私はラッキーなことに、入社2年目から事業ディレクターのミーティングに同席していましたが、なんともピリピリしたムードだったのを覚えています。
それでも、「どうすりゃいいんだ よ・・」という状況で、「どうにかして」結果を出すプロセスから学んだことはたくさんあります。
これは勢いで勝負する成長事業では決して得られない貴重な経験です。
もちろん、売れば売れる成長事業ならではの経験もあります。でも、少なくとも「成熟しているから」という理由だけで、会社選びの選択肢から切り捨てるのではなく、今一度自分自身が求める経験がどんなものか、考え直してみる価値はあると思います。
成長事業と成熟事業の違い
私は現在、数字の管理をしているので成熟事業も成長事業もすべてを俯瞰する立ち位置にいるので、両事業の違いを感じる局面が多々あります。
とりわけ感じるのは、売上重視か利益率重視かという違いです。
売上重視の成長事業
成長事業では商品を作れば作っただけガンガン売れます。なんなら、「生産が追いつかないから販売部隊に販促するのちょっとだけストップ!」なんて贅沢な問題もあります。
つくれば売れるわけですから、工場は常にフル回転です。商品のコストって沢山作れば作るほど単価が下がりますよね。なので成長事業の商品の原価って極めて低く抑えられています。つまり、利益の事なんて考えずに「とにかく売れ売れー!」ってな具合で事業がどんどん成長していくんです。
当然、事業本部も最も注視しているのは「売上高」です。
利益率重視の成熟事業
一方、成熟事業はそうはいきません。作っても売れないから、工場の稼働率は低い。工場の稼働率が低いから商品の原価が跳ね上がる。仮に商品が売れても安売りせざるを得ない状況なので、利幅も極めて小さい(モノによっては赤字もある)。
こんな状況です。成長事業とは全く異なる環境ですよね。ですので、事業本部が注視している事も成長事業とは違って、「利益率」を見るわけです。
利益率を管理するという事は、売上、原価、その他の費用、その全てを管理することを意味します。「売上が伸びないなら、コストを抑えて利幅を稼ごう」、「どうやってコストを抑える?」こんな議論が日々繰り返されているんです。
「売って売って売りまくれ!」の成長事業と、「冷静に課題を定義して利益率を改善させよう。」の成熟事業。得られる経験が全く異なる理由がなんとなく伝われば幸いです。
まとめ
成長フェーズか成熟フェーズかによって、得られる経験は異なるという事はなんとなく皆さんのご存知のはず。その上で、ほとんどの人は成長している企業を好み、成熟企業はイマイチ、、と判断しがちです。
でも必ずしもそうではありません。成熟事業のほうが得られる経験は魅力的かもしれません。その判断を冷静にした上で、会社選びに活かして頂きたいと思います。
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